『一周忌を記念して』
1年と少し前、一人の偉大なジャズ・ピアニストが星になりました。スタンダードなジャズには滅法明るくない僕も、この男のピアノは知っています。ピアノひとつで人の心を動かし、泣かせることができる現存した数少ない男の中の一人は、2007年12月23日、腎不全でこの世を去りました。(享年82歳)
「ほとんどのピアニストは両手を使っても、彼の片手での演奏にもかなわないだろう」とさえ言われたほどの超技巧派でした。スウィンギーでダイナミックな彼の演奏が凝縮された本作は、1964年録音の言わば“ベスト盤”的な存在。ただし、技巧派の名を欲しいままにした超絶テクニックは、本作においてはあまり前面に出ていません。それでもなお彼の上手さは、針を落とせばすぐに分かるでしょう。その洗練された都会的なタッチは、清潔感に溢れ、艶やかで、どこまでも繊細。これが僕の中での最高のピーターソン。
スタンダードジャズからボサノヴァの名曲まで、短い尺でテンポよく軽やかに流れる珠玉の1枚。冒頭を飾るトム・ジョビン作曲のM1から、ピーターソンの代表曲M2に続く流れは、まさに冬の澄み切った夜空に佇む静かな星を想像させます。まるで、それは星になったピーターソン、彼そのもの。